企画 2012/01/01

華衣 03
「わー、ありがとう」
小ぶりの土鍋を抱え込むようにしてあかりがテーブルに着いた。相当疲れている。
「こういう忙しい時に料理作ってくれる人が居るって助かる……」
5時を回ったばかりの外は、まだまだ暗い。気温も相当下がっている。
こんな状態で4時間座って商売は辛いだろう。
「やっぱ寒いか、外」
「寒い寒い。しかもあんまり厚着が出来ないし、わたし」
ブランケットじゃあやっぱりねー、とあかりはうどんをすすりながら眉をひそめる。
「カイロも限度があるしさー。暖房なんて入れるだけ無駄だし」
「あちこち開いてるもんな」
「でも雨も雪も降ってないだけましね。――そうそう、今年も出たんだって?」
「出たって、確かに居たけど」
あの着物の子供だろ?と夏葵は聞き返した。あかりの言い方だと、別物のように感じる。
「わたし毎年授与所の中だからあんまり見たことないんだよね。どんな感じ?」
「俺が見たのは茶色くて金糸のだな。香葵は黄色いのがいたって言ってたぞ」
いいなあわたしだけ見てないんだよねえ、とあかりが呟く。
「でも利は黒って言ってたよ。黒に白抜きで模様」
「黒?俺には茶色に見えたけど。金糸が光ってた」
「もしかして3人いる?」
「さあな」
まあ何人いても無害な限りいいんだけど。あかりはそう言って、食事に集中した。
夏葵は手持無沙汰に湯呑に口をつけた。もう冷めている。
居間から境内が望める。夏葵が来た時より、だいぶ人影は減った。
「だいぶ減ったな」
「何いってんの。本番はこれからよ」
9時には夜の倍になるわよ、とあかりは夏葵を見向きもしないで答える。
「あ、次の休み利ね。なんか温いもん作っておいてくれない?」
夏葵は一つ頷いた。利に頼まれたように、そろそろ慧に何か作らないといけない。
「そうだな……今度は何にするかな」

6時を回ると、あかりと入れ替わりに利が入ってきた。表情がくたびれている。
「眠い……」
「それはそれはお疲れ様で……香葵は?」
「あかりと朋也にこき使われてる。アレ取れ、この空き箱潰せとか」
向こうは戦場だな、と夏葵は呟き、大きなマグにコーヒーを入れてやった。
「雑炊でいいか」
「なんでもいい」
5分もしないで調理を済ませる。
「それだけ忙しいなら儲かってるのか」
「とりあえず仕入れ分は回収したかなー」
レンゲで土鍋を掻きまわしながら、利はそう呟く。
外が明るくなってきて、賑わいが増す。
「これから本番だなあ……こっちは寝たいってのに」
「神社って、いわばサービス業だよな」
利がうんざりした表情で頷く。
「兄貴とかホントうらやましい……」
「あかりも言ってたぞ。この時期にインフルエンザかかるとかいっそ死ねって」
「兄貴が倒れた日からずっと言ってる」
利はそう言うと、もそもそと食事を続けた。
ふと、夏葵は眉をひそめた。利も食事をやめて顔を上げる。
空気がざわめいている。
「何だ……?」
訝しいんだ利が窓に寄る。
境内のほうが何やら騒がしい。
その中からひときわ人を引き付けた――

――――――天を突く、声。