企画 2012/01/01

華衣 02
「よお、夏葵と香葵」
授与所に回ると、あかりが目で出入り口を示したのでそちらに回ると、利が休憩していた。
最初は気がつかなかったが、今日は授与所の半ばに衝立がある。利が居たのは衝立の影だ。
「衝立なんて初めて見たな」
「目隠しだよ。金庫置いてるし、休憩のためにいちいち家戻るには忙しすぎる」
利は疲れた声で電気ポットに手を伸ばした。
「ま、見えないところでならいくらでも居ればいいさ。俺はしばらく休憩」
利はそう言いながらお茶を注いで、夏葵の方に寄越した。
「新年明けましておめでとう」
「お互いな。――そうだ」
夏葵は香葵を見ると、香葵も気がついたように口を開いた。
「何か変なもの居ないか?子供みたいな大きさの、着物みたいな」
こう、これくらいの、と香葵が高さを示した。
その直後、利は実に嫌そうな顔をした。
盛大にため息をついてから「やっぱり気付いたか」と呟く。
「知ってんのか?」
「知ってる」
「何だ?」
「あれなー……」
利はカーテンと衝立の隙間から境内に視線を向けた。
「毎年出るんだよ。参詣客がひときわ多い時に」
「対処してないのか」
「対処できないんだよ。忙しいし人多いし。ついでに無害だから放置」
いることは知ってるんだ。2人だろ。と利は続けて言った。
「ここに熱心に来る信者でも、年寄り連中はみんな知ってるぜ。誰も口開かないだけ」
「何で言わないんだ?確かに、話聞いてれば座敷童みたいだけど」
座敷童が境内に出没するかよ。夏葵の言葉は利とハモった。
「思うところあるんだろ。年寄りなんてブログとかツイッターとかやるわけでもないから、話も広まらないし」
「広まったら広まったで問題だけどな。組合が関与してくる」
あいつら出しゃばるの好きだからなー、と夏葵は顔をしかめる。組合のせいでたびたび夏葵は迷惑を被っているのだ。
「んー、まあな。それだけで終わらないと思うけど」
利はそう言うと、紙コップを煽った。

「そう言えば、いつまで休憩なんだ?」
「2時まで。あかりと俺と朋也と、3人中1人が休み。休憩時間2時間」
「長いな」
「結構つらいんだよ」
「慧さんは?」
「インフル撃沈。おかげであかりも朋也も言いようが凄まじいぞ。さすが姉弟だな。言う事がそっくりだ」
そう言いながら、利も無表情になっている。
「いつもの年なら兄貴入れて4人シフトだから仮眠とれるっていうのに……」
どうやら不機嫌の理由はそこにあるらしい。
「それはそれはお疲れ様です――何か作っていくか?おにぎりとか稲荷とか、簡単に食べれる物」
「あ、ホントに?なら頼もうかな……兄貴にも何か、あっためるだけでよさそうなもん」
「ああ。材料は好きに使って?」
「いいよ。頼む」
夏葵はひとつ頷くと、出入り口で靴を履いた。
視界の端に、ちらりと黄の衣が揺れた。