企画 2012/01/01

華衣 01
いつも静謐な沈黙に沈んでいる参道が、ざわめいている。
長く細い道は、そこを守る木々が吸い込んだ闇の中で、微かな光だけを纏って人の往来を許している。
凪夏葵は息を吐いた。ただちにそれは白く曇る。
さすがに寒い。
時刻は午前0時を少し回ったところ。
新年を迎えたばかりの狭霧神社は、これからさらなる混雑を見せるだろう。
「香葵、さっさと行っちまおう」
「ん、そだな」

初詣よろしく、日付が変わるころに狭霧神社を訪れたのは、香葵に誘われたからだった。
町に唯一の神社で、来歴も古いことから例年混雑するらしい。
除夜の鐘は、この街には響かない。
その代り、不思議な高揚感が神社に満ちていた。
高揚感を物にして商売してるんだこっちは、と巫女をする汐崎あかりは言うだろう。
その商売がされている手前の境内は、人があふれていた。
「すごいな。どこからこんなに湧いて来たんだ」
「夏葵、ボウフラじゃないんだからさ」
人を人として認識していない夏葵に、香葵は呆れたように呟いた。ただ、香葵も夏葵にこんなことを言ったところで考えを改めることはないと知っている。
「来たからには並ぼう」
「やだ。こんな集会みたいな」
賽銭箱の奥にある神殿を拝んだところで、御利益があるとは到底思えない。神主息子の浅井利ですら神頼みをしないのだから余計にだ。
そんなものを拝むくらいなら、あかりの顔を拝んだ方がよほどいい。
拝んでこいよ、好きなだけ拝んでこい、と夏葵は香葵に言うと、境内の中心から離れた。
光の届くギリギリのところまでよって、人の群れを回避する。
ちらりと来た方向に目を向けると、その中にきらりと光が反射した。
金属光沢の類じゃない。あれは――金糸?
夏葵は立ち止り、人混みの中――それも子供程度の背丈の位置――を見た。
何かいる。何か――

いた。
美しい着物の裾か、袖か。
雑踏の中に紛れて――だれも見えていない。
目があったような、そんな気がした。

今のはなんだ?
香葵は首を傾げた。
背格好が子供に見えた。
だが、子供があんな物を身につけるか?
「七五三……はもう終わってるか」
何だか不自然だ。
特に、周囲が気に留めていないことが。
あれは変なのに。
「夏葵……」
それから、あかりと利。ここの人間に聞いてみよう。
正直、香葵は不自然な物を対処できない。
「うん。そうだ。それがいい。分かる奴、出来るやつを頼るのが一番」
香葵はひとり、うんうんと頷くと、すぐそばの賽銭箱に小銭を投げ入れた。