銀の魔術師と妖精死譚
episode-流感- 02気になるなら見舞いに行けと、箒を手にした利に追い出された。
夏葵は戸惑い気味に髪を引っ掻き回したが、コートを羽織ると神社へ向かうことにした。
雪こそ収まっているが、風が冷たい。
そのせいかもしれないが、いつも以上に道に人の気配がない。
あと少しで神社というところで、一軒の家に向かう。
表札は出ていないが、ここが汐崎家――あかりの起居する家だ。
と、その玄関が開いた。朋也だ。
「あれ、夏葵さんじゃん珍しい」
靴を履きながらという様子から、出るつもりのようだ。
「あかりはいるよな?」
「部屋で寝てる。あ、俺が買い物行ってくる間、留守番よろしく」
朋也はそういうと、軽やかに夏葵の脇を抜けて行った。夏葵は入れ違いに玄関の中に入る。
風がない分、冷え切った玄関でも温かく感じる。
夏葵はそこで一息つくと、家に上がった。
何度か来たことはあるが、あかりの部屋は知らない。
とはいっても、あかりと夏葵以外に人のいない家だ。気配をたどって階段を上った。
隅の部屋から機械が動く音がする。そこか。
それにしても、殺風景な家だ。あかりと朋也しか住んでいないというあたりからしても寂しいのだが、生活感が丸でない。
一応ノックしてドアを開けると、ふわりと熱気が顔に当たった。
ストーブと加湿器が動くだけの、こちらもまた殺風景な部屋。
夏葵は部屋に入ると、一通り見回してため息を吐いた。
木刀と本しかない部屋だ。あかりらしい。
かけっぱなしになっている巫女服が部屋の中で妙に浮いている。
けほ、けほと軽く咳き込む音で、夏葵はベッドに寄った。起きてはいないらしい。
あかりが弱っている姿など――まったく、らしくない。
夏葵は違和感を感じながら、勉強机の椅子を引いた。片膝にもたれれながら部屋の観察を続ける。
ふと夏葵は机に手を伸ばした。
組合が発行する論文の最新号だ。
ぱらぱらとページをめくる。夏葵も夕べ届いて流し読んだものだ。
「う……ん」
寝返りを打つ気配。
「なつき?」
「あ、起きたのか」
「……水、取って」
「これか?」
机のペットボトルと取り上げると、あかりがもそもそと起き上がった。
しばらくちびちびと水を飲んでいたがやがてペットボトルを置いた。そもままずるずると布団にもぐりこむ。
「具合、やっぱりつらいか」
「……暑かったり寒かったり、あと眠い」
「眠いなら好きなだけ寝ればいい。3日も休みあるんだから飽きるだけ寝れる」
「ん……。トモは?」
買い物に行ったことを告げると、あかりは目を閉じた。
「……寝る」
「ん」
ごそごそと布団の中であかりが寝返りを打つ。
夏葵はそれをしばらく見ていたが、手元の雑誌に視線を戻した。
ふと静寂に気が付いて窓の外を見ると、また雪がちらつき始めていた。