銀の魔術師と還りし人々
14.害獣駆除班 04「まず件の獣。まだ来てないな」
「根拠は?」
利は弁当を開きながらそう訊いた。
「夜霧に訊いただけだけだが、気配が全然しないらしい」
「可能性としてはいつだ? ――こら、トマト盗むな」
プチトマトを盗んだ夏葵はそれを太陽に翳した。
何がしたいんだか。
「詳細は今夜に調べるが、明日以降だろうな」
一晩の猶予はある。
「獣だ魔獣だって、いったいどんなのだ?」
「犬だ犬。サイズは大型犬」
「犬ねえ……」
「頭は二つだ」
先にそれを言え。
まあ人の手に負えるサイズだな、と夏葵はトマトを頬張った。
「捕まえる手立ては? 首輪でもつけて鎖でつなげばいいのか?」
「手立てはないが、つないでおけばいいだろ」
もともとそんなに凶暴じゃないらしい、と夏葵は言った。
「何かで驚いて飛び出して逃げられたらしい。大型犬サイズだから、飢えてると性質が悪いかもしれないが」
「餌も用意しないといけないのか」
「経費は1銭も出ないのにな」
あとは俺以外次第、と夏葵は丸投げした。
「お前なあ」
「俺、動物にあんまり好かれないんだ」
「組合はさすがに知らないか、それ」
「いや、知ってる。それでやらせるんだから嫌がらせだ」
組合は夏葵に何か恨みでもあるんだろうか。
思わず疑ってしまう。
「ないない。そういうのは一切ない……と思う」
「香葵は知らないけどあかりは殴りそうだなー」
夏葵は眉を寄せると苛立たしげに床を蹴った。
利は弁当を片付けながら口を結んだ。
やっぱり不機嫌の原因はあかりと矢島か。
何というか、わかりやすい奴。