銀の魔術師と捕縛の糸
episode-世代交代- 05「――だってさ」
「それが何でお前の口から出てくるんだ」
「伝えるように頼まれたから」
「伝える、ね……」
「ってことでわたしは役割ちゃんと果たしたから」
あかりはそう言うと、さっさと教室を移動してしまった。
入れ違いに利が教室に入ってくる。
「どうした」
「生徒会から伝言があって」
「へえ、誰かやり手でも見つかったか?」
残念なことに、伝言はそこまでありがたいことではなかった。
「必要な時に仕事してくれればいいから、なんとか名目だけでも生徒会長やってくれっていう譲歩案」
「譲歩、ね……」
それ一体どこまで、と利が聞いてくる。
「署名と名目上の長、それから話すの。原稿は生徒会持ちで」
「少ないな」
「……俺は引き受けてから上乗せされると踏んでるがな」
「あーそれはー」
やる。絶対にやる。と利は言った。
「常套手段だしなあ。誓約書とかもないし……」
「そうかそれか」
「え?」
利が怪訝な顔をする。
「誓約書」
「誓約書がどうかしたか」
「それがあれば、最悪引き受けても仕事が上乗せされることがない」
「あ、それだけならやってもいいって思うんだ」
夏葵は頷いた。
署名はすぐに片付くだろう。名目の議長は生徒総会などの場などだけだという。人前で話すことは別に苦ではない。原稿があればなおさら。
「その譲歩案が示されたとはいえ、よく引き受けてもいいかなんて思ったな」
「……あかりが、な」
夏葵はさきほどあかりが出て行った戸を見た。
利はそれで察したのか。
「何か言われたか」
「まあ、な」
「……そうか」
利は酷く同情するような目で夏葵を見た。
「あ、引き受けたんだ。やっぱり」
「お前な……」
夏葵はあかりをにらんだ。
その日の朝一に生徒会から掲示が出されたので、もう周知である。
「ま、今回はさっさと引き受けなくて良かったかもね」
誓約書書かせたんでしょ?とあかりは笑う。
「書かせて置いた方が俺に都合がいいんだ」
「生徒会はあんたが誓約書の手を打ったことに愚痴言ってたわよ」
どこからそんな話を仕入れてきたんだか。
「プラス思考でいけばいいんじゃないの?ほら、校内で何かあっても、好き勝手に動かせるじゃない」
「……そうだな」
「ってことで、頑張ってね生徒会長ー」
夏葵は顔を歪めると、大きな舌打ちで返事をした。