銀の魔術師と捕縛の糸

episode-世代交代- 02
生徒会の総選挙が差し迫った時期だった。
告知されたのは時期的に、夏葵が謎の体調不良に悩まされていた時期である。
そもそもなぜこんな時期にやるのか、というのが夏葵にはよくわからない。

曰く、歴代生徒会長は進学科から選ばれることが多い。
曰く、進学科の3年生は受験勉強で部活や委員会活動にノータッチになることが多い。
曰く、あわただしく引き継ぎをするよりも、休暇かけて引き継ぎをした方が確実性が高い。
曰く、新一年生が入って早々選べと言われても無理があるから、知った人間で選んだほうが間違いがない。

――俺の知ったことじゃない。
夏葵は思考を放棄した。



今年はどうにも、生徒会長に立候補者も推薦者もなかったらしい。
それはいい。
それがどういうわけか、夏葵のところへ持ち込まれたのだ。
夏葵にはその理由がまったく思い当たらない。
しかしどうも、生徒全体に「あいつらにやらせておけば間違いないだろ」という認識があったらしい。
複数形の中にはあかりと利も含まれる。
あかりは女子生徒を主として、中等部の顔ぶれから上がってきた話らしい。
利は中等部時代に生徒会長を務めた関係もあって、生徒会と教職員から上がってきた話だと言う。
夏葵の場合は――思い当たる節はないが、知名度か。
先日の一件で、全校生徒で夏葵のことを知らない奴は不登校だと言う状態である。
しかし、なぜ俺が。
何かをした覚えはない――珍しく。
ようはそこがよかったらしいが。
――という事は後になって、香葵経由で聞いた話だ。
生徒会があかりに対して渋い顔をしたのは、中等部時代にやらかしたあれやこれの結果らしい。
その「あれやこれ」は誰も口を開きたがらなかったという。まあそれ以外にもあるらしいが。
ちなみに利は、中等部であかりとともに同じことになったらしい。
挙句の果てに、生徒会に「汐ちゃんはやめてぇぇ……!」と泣きつかれたという。
あかりは一体何をしたんだか。
――それにしても、俺に生徒会長って。
無理、とはいわない。言うなら無茶、だ。
あかりにやらせられないなら、夏葵もまた同類だと思う。
なのになぜ。
「絶対に人気票だよね」
「他に何かあるかよ」
夏葵はキッチンで悪態を吐いた。
「まだお前がやった方がましだ」
「うえぇ!?俺!!?」
「俺らにどやされてれば立派に生徒会長くらい務まるだろうさ」
「それ絶っっ対ヤダ。俺死んじゃう」
特に経験者怖い、と香葵が言った。利のことだろう。
「俺だって嫌だよ。何だってさらに面倒事背負い込まなくちゃならないんだ」
「あー……確かに」
夏葵は香葵が聞いているのをいいことに、生徒会が夏葵を引っ張り出そうとすることへのあり得なさを並べ立てる。
今日ばかりは夏葵も愚痴が止まらなかった。