銀の魔術師と孤独の影
spinoff-慧- 気持ちの話帰ると、東の空が明らんでいた。
抜け出したままの部屋は、冷たく沈んでいる。
その中に、異物が混じった。
――紙袋。
寝入る気にはなれず、机の上に置いた紙袋を広げた。
小さな箱と、あの時見たものと変わらない手紙。
3年前のことなので、箱を開けるのは少し怖いが、手紙なら。
軽くのりづけされた封を切る。
浅井 慧くん――
おぼえていらっしゃるでしょうか
先日は、昇降口で転びかけたところを支えていただき、ありがとうございました
優しかったしぐさが、昨日のように思い返すことが出来ます
遅ればせながら、ささやかなお礼とさせていただきます
たった4行の文で、便箋の役目は終わっていた。
名前はない。
慧は眼を伏せると、便箋を封筒に戻そうとして――裏に文字があることに気付いた。