銀の魔術師と孤独の影

spinoff-慧- 高校の話
まだ夜中と言っていい時間帯、外の人通りはない。
星のちらつく透明な空は、空気を冷やす以外の用をなさない。
寒さを感じるより、慧は懐かしさを感じた。
最近、弟たちはよく夜中にかけ回ってる。以前慧がそうしていたように。
――懐かしい。
昔の通学路を辿りながら、僅かな感傷に浸る。
それも――ここまでだ。

校門前から見える交差点。
未だに癒えない小さな記憶。
慧は校門に手をかけたまましばらくそちらを見ていたが、短く黙祷して、中に消えた。



鍵の壊れた窓は一年前と変わっていなかった。
心の中で非礼を詫び、母校に侵入する。
入ってしまえば、迂闊なことをしなければ警報がなることはない。
慧はゆっくりと廊下を歩いた。
去年もそうしたように。



2月14日。この日の夜中は、明桂学院高等部の校舎内に、微弱な呪力が流れる。
3年前からだ。
慧は原因も分かっている。
だからこそ逢っておきたかった。――名前も知らないあの子と。
記憶は急速に過去に遡る。