銀の魔術師と孤独の影

episode-早春- うたたね
目を覚ますと、毛布が掛けられていた。
「――?」
「寝転がってうたたねするには、時期が早いんじゃないの?」
「兄貴……」
「いくら頑丈で風邪ひかなくってもさ」
慧は食卓でのんびりと新聞をめくっていた。ガラスの片づけは終わったのだろうか。
「あかりは?」
「さあ」
さあ、って。
利は思ったことをそのまま慧に言うと、慧は座敷の方を一瞥した。
「起きてたら起きてたでいいんだけど――馬に蹴られるのはごめんだよ」
「気づいてたんだ」
「お前が鈍いんだ」
ばっさりと慧に切って捨てられる。

次の瞬間、ドアが開いて頭の中が真っ白になった。
夏葵が顔をのぞかせていた。

「別に誰が鈍くて、誰が鈍くなかろうと興味ないんだけど――あかりが起きた。なんか飲むもの欲しいんだけど」
ぎ、ぎ、と音を立てる首に焦る利が何とかなるはずもなく、慧が「お茶でいい?」と聞き返した。
「はい。それと――あかりが」
「?」
夏葵はしれっと言い放った。
「ない気を無理に回して失敗するのは目に見えてるってわがまま小坊主に言っとけってさ」
「なっ……」
無数の反論が思い浮かんで、言葉にならずに、ただ詰まらせる。
お茶を受け取りさっさと出て行く夏葵も、前もってそんなことをいうあかりも、本人よりも先に気づいていたのだ。
「待てよ!」
毛布を投げやると、座敷に向かう夏葵を、足音荒く利は追った。