銀の魔術師と孤独の影

5.暗躍 08
「でもどうやって動くつもりだ」
あかりと利以外にいなくなった教室で、二人は声をひそめて話す。
「とりあえず凪夏葵が来ないようなところで、最終下校時間まで見張る」
あかりはノートパソコンを起動しながらそう答えた。
「来なさそうなところってどこだよ。あいつもそうだけど、教職員に見つかるのもまずいだろ」
外から見えるところもまずいし、と利は続ける。
「んー、いくつか目星はつけてあるんだけど……」
「どこだ」
「その1、倉庫。あそこ窓の鍵壊れてるからいざというとき逃亡しやすい」
コソ泥みたいだな、と利が呟く。
「その2、体育館倉庫。あそこって体育館とつながってるし、男子更衣室のロッカーよじ登れば侵入できるじゃん。その3、視聴覚準備室。あそこのガラスは全部マジックミラーだからわからないし、普段先生たちも忘れてるところだから。その4、ばれることを覚悟で、ステージ袖の控室」
「4番目、却下」
「ま、普通はそうなるよねえ」
あかりがキーボードを2,3度軽くたたいた。
「倉庫も遠いし……そもそも掃除してんのか、そこ」
「目星つけてあるところは月に一度掃除してるわよ」
「じゃあ無難に視聴覚準備室か体育館倉庫だな」
利は天秤にかけている様子だ。
「ひとつ言い忘れてだけど、視聴覚準備室は侵入するのが体育館倉庫と同じくらい手間よ。鍵こじ開けないといけないし」
「こじ開ける、って……。
体育館倉庫は出るときどうするんだ?」
「あそこ、中に脚立納めてるから大丈夫。第三体育館とちょっと離れてるしね」
ロックを解除すると、ディスプレイには発信機の座標が現れた。あかりは縮尺調整を始める。
「第三体育館、だろうな。結構遅くまで時自主練とかで残ってる部活あるだろ?怪しまれないし」
利が言ってるのは個人の全国大会出場のある柔道部とバトミントン部だ。柔道部はもちろんだが、バトミントン部はこの時期道具一式を部室に入れている。
「じゃあ移動しよ。私パソコンの準備するから剣道場から木刀一本かっぱらってきてくれない?」
「練習してたらどうするんだ……」
「大丈夫よ、今日顧問いないからって部活なくなってるから」
あかりは肩に鞄をかけて手をひらひら振った。