銀の魔術師と孤独の影

4.探索 02
チョークを床に走らせる。
がりがりとコンクリートがチョークを削る手応えが伝わる。

――今回の任務は呪力の収拾。

そもそも呪力というものはあらゆるものに存在している。動物、植物、建物、土地、金属、非金属を問わず――もちろん人間にも。
魔術師は基本的に自分の持つ呪力で魔術を行うが、足りない時は呪力を集めやすい物――例えば鏡など――を使う。
それでも足りない場合は周りの物が持っている呪力を引き出す。
その最たるものが生贄であるが、現代魔術師の間ではこれは最大の禁忌(タブー)である。

呪力の収拾は禁忌を回避するために行われる。
そもそも呪力が存在しないものはない。呪力あってこそ存在できるのであって、ゼロになると存在出来なくなる。魔術師であっても例外なく。
理屈を追う魔導師とは違い、魔術師は高みを目指すものだ。まずは自身が存在することが大前提となる。
そのために呪力の収拾がされるようになった。

とは言っても、今回は夏葵の所属する現代魔術師組合からの任務指令である。どうせまた何かの実験でもするんだろう。夏葵はそのための小間使いでしかない。
下らない仕事なんてさっさと終わらせてオフに戻ろう、という意識からもわかる。



コンクリートに魔法円を基調とした奇々怪々とした図形を書き広げる。
中心にはレメゲトン20の悪魔、プルソン。隠されたものを見つけだす偉大な王。
「よし」
小石ほどになったチョークを屋上から投げ捨て、魔法円を一望する。



そこには直径3メートルの複合魔法円があった。