彼岸花の咲く川で

12.陛下のはなし 03
そのあと何やら灯月と陛下が話し合い始め、澪実はお役御免で部屋を出た。
卓は仕事を拝み倒され、人の子は再び寝そべって動く様子がなかった。
「俺、なんかまずい報告でもしたのかな……」
「そうでないと思うぞ。灯月さんが気にしてないからな。陛下のあれは妖音さん担当の仕事だから嫌な顔したんじゃないのか」
陛下の表情が少し変化したことを澪実が言うと、卓はウイスキーを出しながらそう言った。
「お前は水か?」
「ふざけんなよっ」
「へいへい」
そのまま二人で呑みながら、陛下のことをしばらく肴に話していた。

「そういえば妖音ってだれ?」
「灯月さんの同僚だよ。いつもどこにいるかわからない」
そういって卓が嫌な顔をした。
「あの能無しボウフラのせいでこっちの仕事が増える。首どころか打ち首獄門レベルだ」
どうやら拝み倒された仕事は、本来妖音のものだったらしい。
「それまず除籍で地獄行きじゃね?」
「地獄に連れて行って打ち首獄門を無限に、だ。あれこそ穀潰しだ」
それでも陛下は残しておくんだから、何考えてるかわからない、などと聞こえてもおかしくない声量で卓は愚痴っている。
「何かの役には立つんじゃねえ?」
「お前みたいに?」
「そうそ……待て」

だんだん話の軸がずれてきた。いつもよりペースが速いから、酔ってきたのか。
そのまま二人で、延々呑んだ。

灯月と陛下のあの会話は呑んでも不思議と忘れられなかった。
≫NEXT 目次