彼岸花の咲く川で
1.澪実のはなし 02客来たれり、とかカッコつけてみたけど結局はただ働きな俺。
今度の乗客はグレたおねーちゃんだ。しかもセーラー服でタバコをすぱすぱ吸っている。
肺ガン咽喉ガンならなくてよかったな。苦しいらしいよ、あれ。
とかなんとか心の中で呟く。
あの分だと事故だなと見当つけて桟橋に寄った。
「ねーちゃん、この川渡るんだろ?乗んな」
返事は「あぁ?」となかなかドスがきいている。
うーん、殴られませんように。俺、顔が命だから。
……女々しいな。
「誰に向かってクチ聞いてんだテメー」
「君に。ってか君以外にいないと思う」
だってそうでしょ。この場にまだ未登場の第三者がいたら、俺がびっくりだ。
おねーちゃんは派手に舌打ちするとタバコを川に投げ捨てた。
あーポイ捨て……。
水に流されていく姿は何とも哀愁を誘う。
そんな俺をよそに、おねーちゃんはどかっと舟に乗り込んだ。
はいはい、出発進行ー。
「ってかテメー誰?」
「俺?俺はイケメン船頭の澪実クン」
「はぁ?自分でイケメンとか言うかよフツー」
だって事実だし。
「……ま、否定は出来ねぇな」
ほら。
いやーでも女の子が乗ると嬉しいねー。思わず鼻歌が。
「何鼻歌歌ってるんだ、気色悪ぃ」
そこまで言われるとさすがに傷つくけど。
「だって昨日も一昨日もしわしわ美人の婆さんたちしかいなかったからさー。うら若い女の子のために舟渡ししてれば、そりゃあ嬉しいよ」
女の子、のワードでおねーちゃんがさっと赤くなる。若いねー。
「誰が女の子だっ!」
「君でしょ、やっぱ」
「このナンパ野郎」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
そういえば、とおねーちゃんが行く先を覗き見る。
「どこ行くんだ?」
「彼岸に」
「ひがん?」
「そっかぁ、今の子はぴんとこないかぁ。お彼岸とかあったでしょー。ま、平たく言うとあの世ですなー……ってオイコラ待て逃げんな!」
舟から飛び降りようとしたおねーちゃんの襟首を引っつかんで舟に転がす。……危なかった。
降りられたら俺の商売あがったりだ。
「いーかねーちゃん、耳かっぽじってよーく聞け。此処は三途の川。生と死の境目だ。
あんたは死んだんだ。
この舟は此岸の果てから彼岸の端行き一方通行。ドーユーアンダスタン?」
竿を突き付けられ唖然としたまま突き付けられる残酷な現実。
――これが俺の仕事だ。