彼岸花の咲く川で
1.澪実のはなし 01俺は大概損な役回りだとしみじみ思う。
俺は澪実。職業、船頭。
職業、船頭って言ってもいまどきじゃない仕事は、厄介事がついて回る。
厄介事の主な原因は、乗せるのが死人だからだ。
そう、俺の仕事場は三途の川。此岸と彼岸の境目。
俺が乗せるのは主にジジイとババア……おっと失礼、高齢者が半分。事故病気でくたばった……じゃなくて亡くなった人達が半分。
こういった連中は「善良」だそうなので川の上流を渡る。
犯罪者や人の運命を握った連中は中流、人殺しや自殺者は下流を渡る。
――何が「善良」だ、ボケ。一番タチが悪いだろうが。
理由その1。死んだことを認めない。これ事故のパターン。
理由その2。人の話を聞かない。これは年寄り。
理由その3。わがままふりまいて、挙句の果てに泣く。ガキと老衰がよくやる。
ちなみに俺が一番嫌なのは理由3。対象法は殴る。
……上官にばれたら殺されるな。俺ももう死んだ身だけど。
そんな強制労働を俺はこなしている。正直、娯楽はない。中流や下流だと身の上話が盛り上がるらしいが上流はそれもない。
ただただたゆたう霧に包まれ、彼岸の花を眺め、川の魚を虐める程度。
ま、たまにイルカとかワニとかいて楽しいっちゃ楽しいけどね。
それにどう思う?この格好。
昔ながらの和舟、の船頭が笑顔が眩しい茶髪ジャニーズ系の俺。服はニットにジーンズとコート。
ありえねー。ジベタリアンの方がまだ似合うし。
……とか言ってるうちに仕事再開だ。あとは仕事見てればわかるよ。
じゃあ行こうか。
ゆっくり舟を出した。