夢殿

Breaker 02
通路に、ひとりの青年が立っていた。
手にはじゃらじゃらと音を鳴らす鍵束がある。

「出たい?」

いきなりだった。
いきなり現れて、いきなりこう言って、いきなりひきつれるように、口を開いて笑った。
俺は反応できなくて、ただ黙っていた。
「驚いた?驚いたよなあ、古瀬勇也?」
古瀬勇也――それは俺の名前だ。でもなんでこいつが知っている。
「知ってるさ。知らなきゃやってらんないって。なあ出たい?」
ますますわけが分からない。
俺はそのことを率直に言った。
「分からない?えー……、えっとなあ、この監獄から出たいかって聞いてんの」
俺、鍵持ってるよ?と青年は首を傾げた。

出るか、なんて、そんなこと。
うたたねしているときに看守が通りかかれば殴れらて、たまに嫌になるような叫びが聞こえてくるここなんて。

出たいにきまっている。諦めていただけだ。
「そうこなくっちゃ」
青年は薄い唇をぺろりとなめて笑った。
「じゃ、自己紹介と行きますか。俺は壊し屋。ま、breakerのほうが通りがいいな。俺は今から君、古瀬勇也を監獄から出し、この夢を壊しましょう」
ふざけた口調で青年――壊し屋はそう言うと、鍵穴に鍵を突っ込んだ。



壊し屋はだいぶ派手に出入り口を破壊した。
錆ついて動かない開閉部を蹴飛ばして、蝶番を壊してしまった。
「出るんだから壊れたところでどうってことないぜ」
壊し屋は腰につるした鍵束を弄びながら俺を手招きした。
とどまるいわれもないので、俺は初めて通路に出た。
真っ直ぐ左右に伸びている。俺の両隣りの牢屋は空だった。
「さーて、じゃ、本格的に出ますか」
そう言って、壊し屋はルンルンと左側の通路を歩き始めた。
壊し屋は俺を監獄から出した鍵で壁を叩いている。

その音が、反響して俺に届いた。
その音が、俺の中で何かに響いた。

これで、檻から放たれる――