夢殿
葬列花「は……あっつ……」
木陰に入って息をついた。
何でこんなに暑いかな、といつも夏になると思う。
「だってもう5時じゃん……意味わかんない」
今年の残暑は凄まじい。連日真夏日に熱帯夜で、雨は何日降っていないだろう。
鳥も植物も、どこか元気がないが、その最たるものはやはり人か。
通学路でそれなりに人気があるはずのこの道も、今日は誰もいない。
すっかり温いペットボトルを傾ける。
「あー……ぬる」
すっかり温水のスポーツドリンクは甘いだけで、とてもおいしいとは言えない。
嫌気がさして、残り少しを近くのひまわりにかけた。
この沿道にずらりと並ぶミニヒマワリも、この暑さでへばっている。
太陽に向かわず、がくりと花を下に向けて咲いている様子は、暑さを避けうなだれる人間と 大差ない。
それが、ぞろぞろぞろ、と。
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
――葬列みたい。
うなだれ、死者のために並ぶ、もの。
でもここに死んだ人間はいない。だが、
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
一度イメージした姿が頭から離れない。
ざ、と風が吹き、ミニヒマワリの頭がゆらりゆらりとなびく。
風が止まらず、空に陰りが増す。
不穏な予感に見上げると、不意に低い雲が頭上を通ろうとしていた。
ざ、ざ、ざ、ざ、
ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
ミニヒマワリが木々がぶつかり合って立てる音が、空耳する。
ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
ぞろぞろぞろぞろ
ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
ぞろぞろぞろぞろ
かっ、と雷鳴がとどろいた。
ぶわり、とあたりに影が広がり、一瞬の幻影を作りだす。
「っ…………!」
人が、
ミニヒマワリが、人の列に見えた。
――葬列。
ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
花を見て 今は望みの 革堂の 庭の千草も 盛りなるらん
ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、
オン バザラ タラマキリク
オン バザラ タマラキリク
ばりばりと鳴り響く雷。
ぼつりぼつりと雨粒がアスファルトを叩く。
オン バザラ タラマキリク
オン バザラ タマラキリク
オン バザラ タラマキリク
オン バザラ タマラキリク
オン バザラ タラマキリク
オン バザラ タマラキリク
ざあ、っと周囲から音を奪い取って大粒の雨が落ちる。
視界が白くかすみ、ミニヒマワリの姿が霞む。
そのシルエットはどう見ても――人。
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ぞろぞろぞろぞろ
ドン、と地面を突き上げるような雷鳴。
耳をつんざくブレーキが音が、その中に突っ込んで行った。