企画 2012/04/01

四月馬鹿
四月一日、いわゆる四月馬鹿。
例年何かしらやろうとして失敗、あるいはやり返されるということを、やっと香葵は学習した。
「今更か?」
隣を歩く夏葵は「学習した」発言に呆れ顔を作った。
「覚えたからいいんだっ!」
「俺に仕掛けなけりゃあ、俺は何だっていいんだよ」
毎年夏葵に仕掛けて自爆か誤爆か……学習しない以上に選ぶ相手を間違っている。
夏葵は一人言い捨てると、さっさと階段の先に行ってしまった。
「早いっての」
香葵は抗議の声を上げながら、狭霧神社の境内に踏み込んだ。
今日は遊びに来たわけでも、四月馬鹿を仕掛けにしたのでもない。
昨日の夜、強風で荒れたから片付け手伝え、と使い走りもいいところな呼び出しをされたからだ。
「よー、来たな」
襷掛けした利が、ひどくうんざりした顔で境内にいた。
「香葵は子守な」
開口一番これである。完全に使い走りだ。
「紅と花だよな。夏葵は?もういないけど」
「飯頼んだ――こういう時に限って人手不足とかさ」
何やら利が不満げに呟く。
意識しているわけではないのだろうが、完全に愚痴だ。
「じゃ、じゃあ、俺行くわ」
「おう」

「あれ、夏葵、飯作るんじゃないの?」
「作るも何も、冷蔵庫空。握り飯しか作れないぞ」
入れ替わりに出て行ってしまう。交渉か、あかりのところから持ってくることになるのか。
とりあえず香葵の役目は子守だ。
紅と花は、居ついている幼子の幽霊だ。
幽霊と言っても、中身はただの子供。放っておくとうろちょろ気になるから、何かあると子守に呼びつけられる。
とはいっても、
「俺、どうも舐められてる気が」
するのだが。
香葵だけが呼び捨てにされるし。
そんなことを思いながら居間に踏み込み、いきなり突撃を喰らった。
鳩尾に頭突きニアミス。
香葵が激痛に声を出せずにいると、紅花兄妹が、何やらキラキラした目で見上げてきた。
「こーき、『しがつばか』って、なに?」
「…………ぅ、四月馬鹿?」
「なに!」
「痛い痛い痛い!教えるから!教えるから!!」
2人に手を引っ張られ、そのはずみで爪が食い込む。本当に容赦がない。
この容赦のなさは、絶対にあかりの影響だと思いながら、香葵はやっと床に座った。
「四月馬鹿なぁ……」
何と説明したものか。
そう首を傾げ、それとは別に、むくむくと湧いてきたものがある。
こいつらだったら騙せるよな?と
子供相手に何を、という気もするが、幼少時から成功したためしもなく、今日がその四月馬鹿なわけで。まだ午前中なわけで、今なら監視の目もないわけで。
「はやく!」
「わかったわかった! 四月馬鹿ってのは、さ……」
とっさに何なら問題なく騙せるか思考を巡らす。
「今日の四月一日は、誰に『馬鹿』って言っても許される日なんだよ」
言った瞬間、2人の目が嫌な感じに光を増した。
「ばーかばーか!こーきのばーか!」
「ばーかばーかばーか!」
「…………………………………………なんだろう」
香葵指定で馬鹿と言われまくって、なんというか、物悲しい。
「ばーかばーか!」
「こーきのばーか!」
………………………………………………………………。



この後、紅と花が香葵に延々馬鹿と言い続けていたのを具現化したように、香葵は木刀片手にブチ切れている利に、延々追い回される羽目になった。